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専門技術職の難しさ

 厚労省の発表によると、過労自殺が最悪の81人にのぼったそうだ。

 この「過労自殺」というのは分かりにくいが、過労や職場のストレスが原因でうつ病などの精神疾患となり、自殺にいたるという過程が多いようだ。

 年代別では30歳代、職種別では専門技術職が多いといわれるが、この世代のこの職種に何が起こっているのだろうか?

 この専門技術職と呼ばれる部門は、学校の教員であれ、プログラマーであれ、電気技術者であれ、看護師であれ、その他の生産技術者であれ、専門的な知識と経験が必要とされる部門である。

 その点、学者の世界とはかなりことなり、独特の養成課程を持っている。先輩が後輩を個別に指導し、独り立ちさせるというのは、聞こえはいいが、いやらしい言い方をすれば、親方、子方という“職人の世界”のなごりをとどめている部門でもある。

 だから、学校出たての新人さんがまず直面するのは、先輩との人間関係の難しさである。独り立ちするには経験が必要であるが、経験を積むためには、先輩のサポートが欠かせない。だから先輩との人間関係でまずつまずいて精神的に追い込まれていく人もいる。

 この点を、先輩からいうと、オレだって仕事を山ほど抱えているし、子どもじゃないんだから、一から十まで教えていられないし、自分で考えてなんとかしようとは思わないのか、という話になる。

 私が“ぞうきんがけ”時代を過ごした、電気工事業界はかなりヤクザな業界だったから、モタモタしていると「バカヤロウ、寝ぼけているんじゃない」とペンチが飛んできたし、「これってどうやってやればいいんですか」などと聞けば、「役に立たないヤツはウチに帰れ」といわれた。仕事の下準備も、仕事が終わったあとの後片付けも私がやらなければならなかったし、休憩の時の缶コーヒーやジュースを買いに行くのも私の仕事だった。

 もちろん、今の若い子にこんなことをすれば、一発で、次の日からは来なくなるだろう。

 しかし、これなどは本当はいい方で、現実の実態はもっと進んでいる。

 資本はこの部分の賃金が比較的に高価なことから、専門家は一人いれば十分だとばかりに、人員を極力しぼるということをやってきた。

 だから、指導する先輩もいなければ、相談する人もいないという職場に新人が一人で放り込まれるということもめずらしいものではなくなった。

 この点についていえば、90年代から急速に進んだ技術革新で、もともと高度な専門性を要求される職業の内容が飛躍的に高度化してしまっており、そういう技術を指導できる先輩自体がいないという点もある。

 だから、どこどこで何とかいう機械が故障しているから直してこい、といわれて行くのはたいてい私一人である。

  そして、行って機械の制御パネルを開けたら、複雑な配線がラーメンのようにこんがらがっており、機械的な部分だけではなく、CPUを使っているからシーケンサもプログラム化されている。

 今日はこれを直さなければ家に帰れないのか、と思うと、ビルから飛び降りようという人の気持ちも分からなくはない。 

 また、工事責任者として、山奥の飯場(はんば)に送られるのも私一人だった。仕事が終わったあと、夜遅くまで、施工図を書き直したり、明日の工事の計画を練ったり、今日の報告書を書くのは、私一人だった。余計なことを考えると寝る時間が遅くなるだけだから、何も考えないようにしていたが、あの頃、うつ病は私のとなりにいた。

 資本は「即戦力」、「即戦力」といいながら、そういう「即戦力」をどのように養成するのかという点にまったく心をくばらず、むしろそういう専門技術者の養成課程そのものを不生産的として切り捨ててきたために、養成課程そのものが機能しなくなっており、仕事ができる人材もかぎられてしまっているから、仕事ができる人に仕事が集中するという結果になっている。

 わけの分からない仕事を山ほど押しつけられて、相談する人もなく、一人で悶々として、精神的に追いつめられていくという職場は日本には数多くあるのだろう。

 私は幸いなことに、途中で、肉体的な健康を害して、「これ以上仕事を続けることは肉体的に無理」とドクターストップがかかり、“釜焚き”に転職したので、こういう人たちと同じ道を歩まなくてもすんだが、専門技術者の養成については社会的に考える必要があるだろう。

 

 

 

 

 

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コメント

よく分かる内容の話です。過剰な仕事量を押し付けられ、またはリストラなどで、体を壊す人多数です。自分もその内の一人です。

投稿: ベッキー | 2011年5月31日 (火) 17時47分

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