« 2009年5月 | トップページ

2009年6月

猿のアウシュビッツ

 昔、某県にある某国立大学の霊長類研究所で釜焚き(ボイラーマン)をやっていた人が、ノイローゼになってどうしても今の仕事を辞めたいというので、アリョーハがピンチヒッターでその霊長類研究所の釜焚きを泊まり込みでやることになった。

 仕事の引き継ぎの時、その人が言ったのは、絶対に猿にエサをやったり、仲良くならないようにということだった。

 しかし、各猿小屋のスチームを点検する時には、オリの中に入らなければならないので、入ると猿は人なつっこくて、肩に乗ったり、抱きついてきたりするので、どうしても愛着がわいてくる。

 だが、その地下の冷凍庫には猿の死体、しかも無惨に切り刻まれた死体が山積みされており、研究室の中では、生きたまま頭蓋骨を半分切り取られて、むき出しの脳に電極を何本も埋め込まれた猿やエイズに感染されられた猿や、癌組織を植え付けられて癌に冒された猿やその他の病原菌やらウイルスやら、腫瘍やらを植え付けられて病気にさせられている猿がいた。こうした猿の何匹かは病態を観察するために生きたまま解剖されることもあるということだった。

 そして、夜になると猿小屋の猿たちは、やがて自分たちに訪れるであろう過酷な日々を本能的に感じているのだろうか、実に、悲しい声で泣くのである。しかも一匹が鳴くと、この声はやがて猿小屋全体の声となるので、どうしても目が覚めてしまう。

 そして、眠りにつこうとすると、昼間見た猿たちが「助けて、助けて」と言っているような気がして、すぐ目が覚めてしまう。

 アリョーハの前任者が言っていた「猿の鳴き声がつらいんだ」という言葉は本当によく分かるし、彼がノイローゼになった理由もよく分かる気がする。

 しかし、基本的にこういう問題は、人間の業(ごう=人が担っている運命や制約。主に悪運をいう)のようなもので、それこそ宗教的な病んだ心へと人を導くだけである。

 確かに、猿の脳に電極を突き刺すことで得られる知識は、それをしなかった場合に得られる知識よりもあまり多くはないのだろうが、反面、猿の人体実験によって救われた(病魔から解放された)人間の命は確かにあるのである。

 それがこういう研究所が秘密裏に、ひっそりと山の中に存在する理由であろう。

 現在、この種の研究所というより“猿のアウシュビッツ”は世界で三カ所しかないそうである。それは多くの国々、特にヨーロッパでは動物愛護の観点から法律で禁止されているからだそうだが、この研究所は世界的に有名なので世界中から学者が来ている。だから研究者、つまり、猿の強制収容所の医者、もしくは猿の731部隊の隊員の多くは日本人以外の研究者が多い。

 自分の国の法律で禁止している行為を他国へ来て行うというのは、偽善的であまり好ましくはないのだが、釜焚きの仕事は釜を焚くことであり、「動物解放戦線」のまねごとをすることではないので、夜はできるだけ何も聞かないようにしていた。といっても、どうしても鳴き声は聞こえるし、聞こえてくれば心がシクシクと傷んでくる。

 さいわい、ピンチヒッターは2週間程度で終わって、他の現場へ行くことになったが、ここに3ヶ月ぐらいいたら、もう少し違ったことを書いていたかも知れない。

| | コメント (1) | トラックバック (0)

かけがえのない事件

 亡くなられたカメラマン氏にはご冥福をお祈りするほかないが、彼の死をムダにしないためにも、山口県で起きたボイラー事故は徹底的に教訓化されなければならない。

 この事件は“釜焚き屋”(ボイラー業界)にとってかけがえのないものであるのは、この事件がボイラーの危険が決して空焚きや密閉性の不全による爆発だけではないことを教えているからである。

 つまり、これまでボイラーが“危険物”であるのはそれが圧力容器であり、爆発の危険があると考えられていたからである。

 しかし、今回の事件は一酸化炭素の大量発生による死亡事故であり、こういうことは今後も起こりうること可能性があることを示している。

 そういう点では、事故調査委員会が設置されたことは望ましいことであると言えよう。

 原因は新聞報道から判断するほかないが、フタのしてある煙突口、亀裂の入っていた煙道や煙突、性能検査を受けていないボイラー、取扱責任者の不在、どれをとっても“釜焚き”にはあ然とするほかがないデタラメぶりだが、実際には、こういう例はめずらしいことではないかも知れない。(法令では、煙突から排ガスの排出状況を監視するための窓をボイラー室に設置してボイラー取扱作業責任者が容易に監視できる措置を講ずるように定めているが、そもそも、ボイラー取扱作業責任者さえいなかった可能性がある。)

 というのは、最近のボイラーはほとんど自動制御で、スイッチを押すだけで自動運転をし、またボイラー技士資格者を常駐させる必要のない小型のボイラーでも高性能のものが出始めたので、昔のような、“釜焚き”(職業としてのボイラーマン)はほとんど姿を消して、ボイラーのことを何も知らない人が、朝ボイラーのスイッチを入れて、夜スイッチを切るという現場が多くなっている。

 今回の事件は、そういう現在のボイラーの使われ方にたいして、大きな警鐘を投げかけている事件である。

| | コメント (13) | トラックバック (0)

労災隠し

 どういうわけか現在アリョーハは右足を引きずって歩いています。

 みなさん心配して「どうしたの」と聞きますが、「ちょっと」とか「転んだ」という答えしか返ってきません。

 ホントのことをいうとスリッパを履いてGIS(ガス絶縁開閉装置=六フッ化硫黄ガスを封入した密閉容器内に、断路器、遮断器、変流器、計器用変圧器などの機器を収納した)の銘板を読もうとしてGISによじ登って歩こうとして足を出したら、足を滑らせて転落して、右足を強打した。

 いくら絶縁性の高いガスで密封されているとはいえ、中は何万ボルトもの高圧電流が流れており、しかも高所作業じゃないか、ヘルメットと安全靴の着用が常識だろと自分で自分を叱っている。

 労災の申請をしたら、という人もいるが、別に骨が折れているようでもないし、何しろ入ったばかりで、まだ一ヶ月もたたないのに、労災の申請なんかしたら、会社に何をいわれるか分からない。

 それに、本当は、失業期間の二ヶ月ほどのあいだに蓄えを使い果たして、病院に行くお金も残っていない(労災は先に自己負担をして後でそれを還付する方式なのでまず自己負担をしなければならない)。ここは、薬局で湿布(480円)と包帯(330円)を買って自分で処置するしかない。

 本当にイタイ話だ。  

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2009年5月 | トップページ